新素材を用いた次世代建築構造システム

Methodology on New Materials Based Structural System Laboratory

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本講座では,新素材の研究とその応用について、以下の3基軸を中心として独創的な教育・研究を行う。

1. 損傷制御機構を用いたスマート構造の機能創生

2. 新しい構造接合の開発と環境共生への適用

3. 長周期地震時における中高層RC建物の棟間衝突の検証

4. RC構造物のFEM解析


パンフレットとビデオ






1. 損傷制御機構を用いたスマート構造の機能創生

 建築物が遭遇する外乱に対して明確な性能表示を行うことは、緊急の社会的要請であり、地域防災を念頭に置いた質的な性能向上と長寿命化を達成することは、地球環境保全の観点からも、重要な研究課題である。

 このような社会的かつ科学的課題を達成するために、外乱とその結果として生ずる応答を検知して、損傷レベルに応じて多段階制御を実行する機構を建築物に付与した損傷制御構造を構築する必要がある。

 このような研究背景に対し、従来の建築システムに組み込みやすく、視覚的損傷検知が可能なセメント系複合材料を活用した損傷検知・ダンパー機構と、損傷進展に伴う靭性向上と最大ひずみ記憶性を有する高性能合金TRIP (TRansformation Induced Plasticity) 鋼を用いた損傷検知・修復機構を組み合せた自律的な「多段階制御機構」を提案している。

ここでは、損傷検知・ダンパー機構に対し、ハイブリッド型繊維補強セメント系複合材料を用い、エネルギー吸収性能に優れた部材を並列配置した制震壁を提案している。

そして多段階に破壊する機構を付与することにより必要剛性・耐力を調整し、同時に履歴による減衰効果を付加するという構造特性を検証している。

さらに、損傷レベルが視覚的に判断でき、損傷検知後の修復が可能であることを明らかにしている。

また、損傷検知・修復機構に対し、Fe-Cr系のステンレス合金であるTRIP鋼とステンレス鋼を用い、実用化に向けて重要な研究課題である交番繰り返し載荷時の磁気特性(最大ひずみ記憶能)を定量化し、ステンレス鋼と比較したTRIP鋼の高い損傷検知・修復特性、及び応力-ひずみ履歴と磁気の変化との相関性を明らかにしている。

これらの研究は、材料・構造レベルでの自律的な「多段階制御機構」に基づく構造システムの創生という、基礎から応用までの幅広い研究による新しい領域を開拓したものであり、今後はその応用に重点をおいた研究を目指している。


【自動検査ロボット】

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【地域防災システムとしての展開構造】

建築物が密集している地域で大災害が発生した場合、1棟が安全であっても、隣接する棟の崩壊や火災などによって、人命が脅かされることになる。
したがって、今後、安全を確保する形態は個々の建物だけではなく地域全体を対象としたものになっていくものと考えられる。
こうした課題に対する解決方法として、1つの基盤構造体の上に設けられた共有地盤上に建つ建築群を、まとめて災害から守る方法を提供することが考えられる。このような方 法を地域防災システムと定義する。

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【エネルギー吸収壁】

鉄筋と、繊維補強セメント系複合材料(Fiber Reinforced Cementitious Composites)を用い、作られたダンパー壁に地震エネルギーを集中させ、変形によりエネルギーを吸収することで、建物の揺れや地震による損傷を軽減させることを目的とした次世代の耐震壁。現在、実験と解析の両面から研究を進めている。

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【TRIP鋼】

あるひずみに達すると、原子の結晶構造が不安定だが伸びの良い結晶格子(オーステナイト)から、安定した硬い結晶格子(マルテンサイト)に変態することにより、磁気を帯びる特殊な鋼材。
この特性による自己診断機能、自己修復機能を生かして、建築物にその性能を明確にするセルフモニタリング機構を組み込ませるという研究開発を行っている。

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2. 新しい構造接合の開発と環境共生への適用

建築基準法改正により、高い性能を確保するのみでなく、必要に応じた様々な性能レベルと形態を持つ建築が可能となった。そのため、環境負荷低減を目指した新しい建築構造システムを構築し、地球環境保護の観点から建築性能を見直す必要性が生じてきた。

このような研究背景に対し、これまで建築構造物ではあまり配慮されてこなかった環境負荷が少なく、簡便につくれて簡便に取り替えられる、リサイクル材料の使用も可能な建築構造システムに着目し、建築鋼構造における従来の溶接やボルト接合による柱梁接合部や基礎への埋め込みを余儀なくされている柱基礎接合部などに対し、現在、マイクロメカニックスによりその材料基礎特性の研究が進められている繊維補強セメント系複合材料を接合材として使用した独創的な「接合構造システム」を提案している。

さらに、実験及び非線形有限要素法解析に基づき繊維補強セメント系複合材料の材料構成則を定式化し、(1)の研究成果である巨視的せん断破壊力学モデルを適用して、接合部の微視的破壊・変形特性の定量化と「接合構造システム」を適用した架構全体の構造性能評価手法を提案している。

本手法の提案により、これまでの溶接で要求された高い材料品質を持たないリサイクル材料などの使用を視野に入れ、生産性が高く、信頼性を損なわない新しい接合法を用い、強度指向型、靭性指向型などの種々の接合部に応じた建築性能を理論的に制御する環境負荷低減を目指したシステムとして統合する可能性を明らかにしている。

この成果は、接合部の材料・構造レベルでの複雑な破壊挙動を評価できる数理モデルに基づく構造システムの創生という、基礎から応用までの幅広い研究による新しい領域を開拓したものであり、今後はその応用に重点をおいた研究を目指している。

【スチールチップ補強セメントを使用した柱脚接合】

精工鋼板製造過程で生じるスチールチップ(切削屑)を配合したセメント系複合材料によって実現した、小スペースで高い強度を持つ次世代柱。
高い施工性と力学性能を兼ね備えた柱の実現、さらに接合部高さをスラブレベル以下まで低くすることで施工性の向上やスペースの有効活用を目指している。

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スチールチップ補強セメント接合部の構成と実験

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スチールチップ



3. 長周期地震時における中高層RC建物の棟間衝突の検証

研究概要と映像(英語)

長周期地震として知られる1985年メキシコ地震において被災した14階建鉄筋コンクリート(RC)造集合住宅ヌエボ・レオン棟の倒壊に至る機構を実験と数値解析により解明した。

この建物は当初1秒であった固有周期が,震動過程で2秒まで増大して共振が発生するとともに,エクスパンション・ジョイントを介して隣接する棟同士の衝突が建物倒壊の原因になったと推定される重要な事例である。

ここでは,震動過程の固有周期変化や,棟間衝突が建物の損傷・倒壊を引き起こす機構を解明し,長周期地震動時の損傷防止を目的とした設計や検証に利用できる数値モデルを構築した。

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4. ひび割れ進展解析

コンクリートと鉄筋の境界面の力の伝達を考慮して,構造物内部に発生するひび割れの分布,応力の流れ,鉄筋のずれ(付着滑り)等を詳細に検討する研究も並行して実施している。


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パンフレットとビデオ

p1.jpg 研究室パンフレット1(概要1)

PDF形式 (1.8 MB)



p2.jpg 研究室パンフレット1(概要2)

PDF形式 (3.2 MB)



p3.jpg 研究室パンフレット2(地域防災システム)

PDF形式 (8.5 MB)



video4.jpg 展開構造

AVI形式 (50.2 MB)



video5.jpg 戸建住宅用ダンパー

M1V形式 (11.8 MB)



video6.jpg 損傷モニタリングロボット

Windows形式 (1.3 MB)



video2.jpg FEMによるRC柱のひび割れ進展解析

Windows形式 (7.7 MB)



video3.jpg 1985年メキシコ地震における14階建RC建物の時刻歴応答解析

Windows形式 (13.0 MB)



video7.jpg 1999年台湾・集集地震における3階建RC建物の時刻歴応答解析

Windows形式 (11.5 MB)